不動産業界のデジタルマーケティング業務インハウス化の条件・課題とポイント

本記事では不動産業界でデジタルマーケティングのインハウス化を行う上での課題、効果、気を付けるべきポイントについて解説します。

この記事はこれからデジタルマーケティングのインハウス化を実施・検討されるご担当者向けに具体的な業務や課題、注意すべきこと、構想含めて記載をしており、有益な情報をお伝えしております。

◆この記事で分かること

・不動産業界のマーケティング業務の特徴や課題
・インハウス化(内製化)の効果とメリット
・どんな施策を内製化すべきかと事例

不動産業界でも新しい物件(マンション)、中古物件などが発売されたら大々的に広告を打つ企業が多いと思います

その際に狙いたいターゲットに正確にプロモーションを打つことやサイト上できちんと情報発信をしたいときに広告代理店を通じて実施するとスピード感が遅かったり、ターゲットに認識のずれが発生、成果がイマイチといったケースが発生する可能性があります。

物件情報やターゲットとなるユーザーのことを理解している自社でマーケティング業務を実施できればコストも抑えることができ、成果もあげることができます。

まだデジタルマーケティングのインハウス化についてイメージを持っていなくても、これからお話する内容を読んでみて少しでも興味や検討をしていただけると幸いです。

不動産業界の特徴

まずは不動産業界の特徴から解説します。不動産業界に属している方は知っているかもしれませんが、業界に属していない方やこれから理解しようとしている方はこのパートで業界の特徴理解を深めていただければと思います。

金額が大きいため顧客のリードタイム(意思決定)が長い

不動産業界では、一つの取引に関わる金額が非常に大きいため、リードタイムも長くなりがちです。家を購入するというのは人生の中でも大きな決断の1つですし、金額感というのも何千万、何億となるケースがあります。

顧客は慎重に検討し、意思決定に時間がかかるため、長期的なフォローが必要となり、思うようにすぐ結果に繋がるということは多くはないかもしれません。

なのでマーケティング活動においても、短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点で顧客と関係を築くことが求められます。

建築法や宅建など専門的な知識が必要になる

不動産業界の特徴としては建築回りの法理解や場合によっては宅建がマーケティング業務においても必要となるケースがあります。

なぜなら当然ながらマーケティング業務を実施する上で訴求する文言、明記すべき表現などは注意が必要となるからです。

資格を持っていなくても問題ありませんが、抑えるべきルールを理解しておくことに越したことはありません。

ターゲティングが難しい

不動産業界のマーケティング業務の特徴にフォーカスを当てていきます。

不動産の購入・投資は個人のライフスタイルや経済状況によって大きく異なります。

そのため、精緻なターゲティングが難しいです。もちろん自宅を購入検討している方は検索はしますが、物件情報を見て興味関心が湧くユーザーも多くいるようです。

特定の属性やニーズに応じた細かなターゲティングが必要であり、そのためのデータ分析やマーケティング戦略が重要となります。

ターゲット層を明確にし、それぞれに最適なアプローチを行うことが成功の鍵です。

地域性があるためジオターゲティングの実施

不動産業界では、地域性が非常に重要です。

物件の特性や市場の状況は地域ごとに大きく異なるため、地域に特化したジオターゲティングが効果的です。

インハウス化により、地域ごとのデータを細かく分析し、地域に適したマーケティング施策を実施することが可能です。これにより、ターゲット層に対してより効果的にアプローチできます。

投資や物件のリテラシーが必要なため外部に委託すると品質がブレることがある

不動産業界では、投資や物件に関する知識が必要となることが多いです。

もちろん理解をしている代理店もいるのは前提ですが外部にマーケティングを委託すると、情報の正確性や品質がブレるケースがあります。

インハウス化することで、自社の専門知識を活かした一貫性のあるマーケティング活動が可能となり、顧客に信頼される情報を提供できます。

市場の変動(経済状況や金利の変動、人口動態)の影響を受けやすい

不動産市場は経済状況や金利の変動、人口動態の影響を受けやすい業界です。

直近では日銀が金利を引き上げたことで住宅ローン金利も上がりゆくゆくは変動、固定金利も上がる可能性が高まっています。

市場の変動に迅速に対応するためには、柔軟で迅速なマーケティング施策を実行できる体制が必要です。

インハウス化により、市場の動向を常に監視し、タイムリーな対応が可能になります。これにより、リスクを最小限に抑えつつ、チャンスを最大限に活かすことができます。

都市開発や政策の影響も受けやすい

新しい駅や駅周辺の再開発プロジェクト等地域活性化の影響を受けやすいのも不動産業界の特徴です。またこういった都市再開発プロジェクトは政治の影響も大きくあります。

顕著な例だと千葉県の流山市は子育て&企業誘致で済みたい街ランキングで何年も1位と獲得しています。駅周辺の再開発に加えて子育て支援を打ち出し外部からファミリー世帯をどんどん率いてると同時にマンションや戸建てなども多く建っています。

また神奈川県の武蔵小杉も都心部へのアクセスの良さから再開発がされて駅周辺にはタワーマンションが多く並んでいて、子育て世帯を多く誘致しました。それと同時に当時は地価が一気に跳ね上がり全国から注目された場所でもあります。(多摩川の氾濫でも影響を受けましたが)

こういった地域の影響を受けやすいのが不動産業界で街開発、都市開発のニュースにはマーケティング業務を実施するに当たり情報収集として目を光らせておく必要が場合によってはあります。

不動産業界でデジタルマーケティングのインハウス化を実施する効果

不動産業界の特徴(業界自体の特徴、マーケティング業務をする上での特徴)については上記で理解が深められたと思います。

ここまでで「不動産業界でデジタルマーケティングのインハウス化やる意味ある?」と思っている方もいると思います。実際に「代理店に委託した方が正確だし時間もかからないしいいんじゃね?」と思っている方もいるかもしれません。

しかしインハウス化することのメリットが莫大でコスト、成果両方の面で効果が非常に大きいです。

必要な時期・タイミングで瞬時に施策を打てる

不動産業界では、タイミングが非常に重要です。意外と軽視している方が多いのでまず最初にこちらの効果について詳しく解説します。

不動産業界では新しい物件の情報や市場の変動に迅速に対応することが求められます。

インハウス化を実現することで、外部に依頼する手間や時間を省き、必要な時期に迅速にマーケティング施策を打つことが可能になります。これにより、機会を逃すことなく、顧客の興味を引き続けることができます。

逆に代理店にもよりますが、委託することでスピード感を持った対応をとれないケースもあります。多くの広告代理店や制作会社は複数クライアントを抱えていて貴社専属ではなく、掛け持ちで業務を実施しています。各社自分の会社を優先してほしい気持ちはあれど順番は「金額感」で決まるケースも多いです。

つまりいくら製作費や広告運用費を出すかによって左右されるケースです。つまりリスクとして本来プロモーションを打ちたいタイミングで打てずチャンスを逃したり、場合によっては代理店の担当者が業界理解に対して未熟なこともあり施策を打ったとしても効果的ではないこともあります。

つまり自社で実施することで、自分たち手動でスピード、成果、コスト抑制を同時に実現できる可能性があるということです。

いずれにしてもプロモーションを打つべきタイミングで即座に対応できる体制を整えることで、競争力が大いに向上しますし他社差別化にも繋がります。

外注コストを抑えられる

不動産業界におけるマーケティングの外注には、高額なコストが伴います。

代理店や外部の専門家に依頼するたびに、料金が発生し、それが累積して大きな経費となります。基本的にweb広告の場合、相場のマージンは30%~15%ですが、広告費用が上がれば上がるほどマージン費用が大きくなります。

インハウス化を進めることで、これらのコストを削減でき、長期的には経済的な負担が軽減されます。自社で対応することで、費用対効果の高いマーケティング活動が可能となり、予算をより効率的に活用できます。

データやノウハウの蓄積

自社内でデジタルマーケティングを行うことで、データやノウハウが蓄積され、長期的な戦略の構築に役立ちます。

不動産業界では、顧客の動向や市場のトレンドを把握することが非常に重要です。インハウス化により、これらのデータを一貫して収集・分析し、自社のマーケティング戦略に反映させることが可能です。これにより、より効果的な施策を継続的に実行することができます。

企画から実行までのスピードが早くなる

インハウス化を進めることで、マーケティングの企画から実行までのプロセスが迅速化されます。

外部に依頼する場合、コミュニケーションのタイムラグや調整に時間がかかることが多いですが、社内で完結することでスピードアップが図れます。これにより、マーケットの変化に迅速に対応し、競争優位を確保することができます。迅速な対応は、顧客満足度の向上にも繋がります。

不動産業界にあるデジタルマーケティング業務一覧

デジタルマーケティングインハウスの効果について解説しましたが、実際にどんなマーケティング業務がありどの業務がインハウス化候補となりうるのかについて解説します。

マス広告

まずはマス広告です。不動産業界では、依然としてマス広告が重要な役割を果たしています。ローカルな地方だとテレビやラジオ、新聞チラシですし、都心だと電車内のつり革広告などを目にする方も多いと思います。

マスメディアを活用することで、広範囲のターゲットにアプローチすることができます。特に大規模なプロジェクトや新しい開発エリアのプロモーションには効果的で、いまだに効果があります。

マス広告の利用により、ブランド認知度を高め、多くの潜在顧客にリーチすることができます。

WEBデジタル広告

インターネットの普及に伴い、不動産業界でもweb広告の重要性が増しています。

検索エンジン広告やディスプレイ広告、リスティング広告など、様々な形式のweb広告を駆使してターゲットにアプローチします。

これにより、特定のニーズを持つ顧客に対して効果的に情報を届けることができます。web広告は費用対効果が高く、ターゲット層を細かく設定できるため、非常に有効な手段となっています。

マーケティングオートメーション

マーケティングオートメーションを導入することで、リードの育成や顧客フォローが効率化されます。

顧客の行動データを基に、自動でパーソナライズされたコンテンツを配信することが可能です。不動産業界では、顧客の意思決定プロセスが長いため、継続的なフォローが重要です。資料請求をしたユーザーに定期的にコンタクトをとったり、打ち合わせをしたユーザーに対しての疑問解消の窓口を設けるなどマーケティングオートメーションを活用することで、効果的にリードを育成し、成約率を高めることができます。

SNS広告

最近では主にSNSを使って不動産情報や物件情報の発信をしている企業が多いです。

SNS広告は、ターゲット層に直接アプローチできる効果的な手段です。FacebookやInstagram、XなどのSNSプラットフォームを活用して、魅力的な物件情報やプロモーションを発信します。

SNS広告は、ターゲットの興味や関心に基づいて広告を配信できるため、高いエンゲージメントを得ることが可能です。また、ユーザーとの双方向のコミュニケーションを通じて、ブランドの信頼性を高めることができます。

不動産業界でデジタルマーケティングのインハウス化を実施する上での課題

デジタルマーケティング業務のインハウス化(内製化)効果は絶大です。しかし実現する上での課題も当然あります。

すでにインハウス化(内製化)を実現した企業でも最初はこれからご説明する課題を抱えていました。まずはどんな課題があるのかを解説します。そしてどう乗り越えたのかも後述します。

マーケターがいない

不動産業界でデジタルマーケティングをインハウス化する際の大きな課題の一つは、専門のマーケターがいないことです。

デジタルマーケティングには高度な知識とスキルが必要であり、既存の社員だけで対応するのは難しい場合があります。適切な人材を採用し、育成するための計画を立てることが必要です。

自社のみだと育成が難しい

自社だけでデジタルマーケティングの専門知識を持つ人材を育成するのは、時間とリソースがかかるため難しいことが多いです。

特に、専門知識を持つ社内トレーナーがいない場合、社員のスキルアップは限界があります。

研修や教育プログラムの整備、外部の専門家やコンサルタントの協力を得ることで、より効果的な育成が可能になります。インハウス化の成功には、継続的な教育とサポート体制の構築が不可欠です。

退職・異動などのリスクがある

インハウス化において、もう一つの大きな課題は人材の退職や異動です。デジタルマーケティングの知識を持つ社員が退職してしまうと、蓄積したノウハウやスキルが失われ、プロジェクトが停滞するリスクがあります。

不動産業界も企業と部署によって違いますが退職率が高い部署の場合人の入れ替わりが激しくなると業務の品質が安定しないため、業務内容を平準化するなどの工夫がインハウス化には求められます(退職率関係なしに、インハウス化を行う上で業務内容を平準化すること自体は求められます)。

社員のモチベーションを高め、長期間にわたって企業に貢献してもらうための環境づくりが重要です。また、退職リスクを考慮し、複数の社員にノウハウを分散させることも有効です。

不動産業界でデジタルマーケティングのインハウス化を実現するポイント

デジタルマーケティングのインハウス化をする効果や業務などはご理解できたと思います。ここまで読んでいただき「うちの会社だと難しい」「人がいないし無理だわ」と思っている方も多いと思います。

しかし多くの企業はインハウス化(内製化)を実現していますし、そのノウハウは実は世の中に出てこないものが多いです。

では一般的にインハウス化(内製化)を実現している企業はどんなことに力を入れているのか、どんなポイントを抑えているのか見ていきましょう。

業務を仕組み化・平準化

まだ不動産業界は営業気質な体質の会社が多く、マーケテイングにそこまでリソースを割いていない企業も多いと思いますが、マーケティングこと自社内で力を入れるべき部署であり業務です。

先ほどもお伝えした通り、不動産業界でのデジタルマーケティングのインハウス化を成功させるためには、業務を仕組み化し、平準化することが重要です。

具体的には、マーケティング活動の標準化されたプロセスを構築し、誰でも同じレベルで業務を遂行できるようにすることが求められます。これにより、業務の効率化が図れ、社員の異動や退職時にも対応が容易になります。

定期的な見直しと改善を行うことで、常に最適なマーケティング活動を維持することができます。

場合によっては新卒を一から育成

新卒社員を一から育成することも、インハウス化の一つのアプローチです。新卒社員はフレッシュな視点を持ち、企業文化に染まりやすいという利点があります。長期的な視点で育成計画を立て、段階的にスキルアップを図ることで、将来的に企業の中核となるマーケターを育てることができます。定期的な研修や外部セミナーへの参加を促し、成長をサポートする環境を整えることが重要です。

支援会社を見つけて勝ちパターンを作っておく

インハウス化を進める際には、専門の支援会社と提携し、効果的なマーケティング手法を学ぶことが有効です。

支援会社の専門知識と経験を活用し、自社に最適な「勝ちパターン」を構築することで、効果的なマーケティング活動を実現できます。

また、支援会社との連携を通じて、最新のマーケティングトレンドや技術を取り入れることができ、競争力を高めることができます。

これはあくまで傾向ですが、「広告運用を得意」とする会社と「内製化が得意」とする会社は全く傾向が違います。名選手が名監督にならないように、同じ業務でも体制を考えたり、レクチャーをしたりなど業務内容が変則的かつ単調ではないので、内製化に向けた動きをとる方がかなり難易度としては高いです。

完全なインハウス化を目指さない

全てのマーケティング活動を自社内で完結させることは必ずしも必要ではありません。

一部の業務は外部に委託し、専門家の助けを借りることで、インハウス化のリスクを分散させることができます。例えば、戦略的なプランニングや高度なデータ分析は外部の専門家に任せ、実行や運用部分を社内で担当するなど、柔軟な体制を整えることが重要です。

バランスの取れたアプローチを採用することで、効果的かつ効率的なマーケティング活動が可能になります。

まとめ

いかがだったでしょうか。

不動産業界でのデジタルマーケティングのインハウス化には多くのメリットがありますが、その成功には慎重な計画と実行が求められます。

上記のポイントを参考に、自社の状況に合った最適なインハウス化を進めることで、競争力を高め、持続的な成長を実現することができるでしょう。